ばくばくと激しく打ち鳴らされているのは、の心臓だけではなかった。隙間なんて見つからないくらいにきつく抱きしめる出水の胸からも、同じ速度の鼓動が聞こえてくる。
「おれも、好きだ」
耳元に落とされた言葉はかすかに震えて、それから堰を切ったようにぼろぼろと言葉が零れ落ちた。
「ずっと、見てたよ。おまえのこと見てた。今までどおりとか、絶対無理。ていうか、どー考えてもおれのほうが先なのに、なんでおまえ、言っちゃうんだよ」
最後はまるで拗ねるような口振りで言ってから、出水はようやく腕の力を緩めた。少しだけ体を離して、の顔を覗き込む。ほんのりと頬に赤みが差した、照れくささと喜びが入り混じった顔。こちらを見下ろす眼差しはどこまでもやわらかく、瞬きのたびに瞳の奥の感情を溢れさせるようだった。好きだと、耳元で囁かれた言葉が、紛れもない現実なのだと今更のように実感する。
「おれと付き合って、」
何度も呼ばれてきた名前なのに、まるで初めて呼ばれたような心地がした。耳慣れたその音が胸の中で宝石みたいにきらきらと輝く。好きだ。目の前のこのひとが、大好きで、どうしようもなくて、同じ想いを返してもらえることが、泣きたいくらいに嬉しい。
「うん、……うん」
ちゃんと応えたいのに、何も言葉にならなくて、声の代わりに涙ばかりが溢れ出す。堪らえようと歯を食いしばっても全然おさまる気配はなくて、目尻を拭う出水の手があんまり優しいものだから、余計に溢れて止まらなかった。
「すき、公平、だいすき」
「わかったから、泣くなって」
呆れたような笑顔すら愛おしくてまぶしい。好き、大好き。公平が好き。言葉にして吐き出しても、涙に代わって零れ落ちても、一向に減りも枯れもしそうにない。むしろどんどん増すばかりで、胸が苦しくてたまらない。
「公平、大好き」
他に言葉が見つからない。大好きじゃ足りないのに、大好きじゃなきゃ伝わらないとも思う。
もどかしさに唇を噛むと、たしなめるように出水の指がそこをなぞった。そのまま軽く顔を持ち上げられて、別の温度が重ねられる。出水の薄い唇は、のそれよりもほんのりとつめたかった。
「え、……?」
「泣き止まないとまたキスするぞ」
泣いてしまうのも止まらないのも全部出水のせいなのに、なんてひどい無茶を言うのだろう。しかし驚いた拍子に涙はぴたりと止まっていて、なんだかそれが妙に悔しい。
「それって、泣いたらキスしてくれるってこと?」
仕返しするようなつもりでじっと見上げれば、出水は驚きに目を瞬かせてから困ったように息を吐いた。
「まあ、それでもいいけど……」
「けど?」
「……してほしーだけなら、ちゃんと言ってくれるほうが嬉しい」
照れくさそうに視線を外す出水に、は少しだけ溜飲を下げた。自分ばかりが余裕をなくして振り回されていてはさみしいし、ちょっとせつない。
出水にもっと、どきどきしてほしいし、好きでいっぱいになってほしい。自分が感じているのと同じくらいに、溢れて仕方なくて困ってしまうくらいに。
少しでも届けばいい、伝わればいい。そんな願いを込めて、今度はから出水にくちづけた。
あなたが好きで世界がまぶしい
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