「わたし、公平のことが好き」
 出水がその言葉を正しく理解するのに、たっぷり五秒はかかった。真剣な表情でこちらにまっすぐ視線を向けるをぽかんと見下ろして――、出水がようやく絞り出せたのは、掠れた息だけだった。フリーズした頭が復帰するよりも前に、は少し早口で続けた。
「公平はもしかしたら、気付いてるのかもしれない、けど。……でも、ちゃんと言っておきたかったの」
 緊張を逃がすように何度も瞬きを繰り返して、は震えた息を吐いた。制服のプリーツスカートを握りしめている手も、息と同じだけ震えている。
「すぐに好きになって、なんて言わない。今までどおりで、いいよ。でも、ちょっとずつでいいから……、わたしのこと、女の子として見てほしい」
 紅潮した頬が、潤んだ瞳が、所在なさげに握られた手が、ひとつの感情を示していた。
 好き。こいつは、おれのことが。
 これまで出水は、何度もの唇が紡ぐ「好き」を聞いてきた。わたし唐揚げが好き。シュークリームはカスタードの方が好き。うさぎが好き、ピンクが好き、黄色も好き。そんなありふれた「好き」と同じ温度が、出水に向けられたことも当然ある。公平好き、大好き。ありがとうとか助かったよとか、そんな言葉の代わりのような、熱のこもらない二文字。
 その二文字が、ある日を境に息苦しくなった。出水の「好き」はもう、他の言葉の代わりになんてならないし、他の何かが並ぶことだってない。だけのための、たったひとつの「好き」なのだ。
 同じ「好き」がほしかった。にとっての、たったひとつの「好き」がほしかった。あの日から、ずっと。そうすれば息苦しさから解放されると思ったのに、……今、こんなにも胸が苦しい。
 おれも、すきだよ。きっとおまえが好きになるよりも前から好きだった。とっくにおまえは女の子で、たったひとりの女の子だった。
 言いたいことが多すぎて、どこから伝えたらいいのかわからない。本当はおれから言うはずだったのにとか、伝えたらどんな顔をするか少し楽しみにしていたのにとか、先を越された悔しさも、ほんのりとあって。けれど何よりも、出水の全身を巡るのは震えるくらいの喜びだった。胸が苦しくてたまらないのに、それすらも愛おしいほど。
 何から話そう、どこから話そう、ひとつも言葉がまとまらなくて、喉の奥で渋滞を起こしているみたいだ。それでもなにか伝えたくて、目の前のたったひとりの女の子を、言葉の代わりにぎゅっと強く抱きしめた。

言葉よりも雄弁に




Up:2019.05.24
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