片想いの相手を見つめる
昔から、を見つけるのが誰よりもはやかった。母よりも姉よりも、の母よりもはやく、出水ははぐれたを見つけた。泣きべそをかく彼女の元に駆け出すのだって、出水が一番はやかった。「これもそーいうことだったのか?」
誰に言うでもなく呟いて、出水はぐしゃぐしゃと後ろ髪をかき混ぜる。視線の先には、三階の廊下の窓の前で、友人と談笑するがいた。
中庭にいる出水からは、豆粒大のシルエットでしかない。それでも見つけた。きっと、この先も。
好きな子に告白された
「はいはい、おれも」幼馴染の熱のこもらない「好き」に、冗談のふりをして本心を告げるのも何度目になるだろう。雑な同意はしても、一度もその言葉だけは口にしていないことに、鈍い彼女はきっと気付いていない。
と、思っていたのだが。
「ほんとに、大好き、だよ」
「あー、はいはい。……はい?」
「公平は冗談のつもり、だろうけど。ほんとに好きって言ったら……困る?」
ぽかんとを見下ろせば、彼女は泣き出す寸前のように瞳を潤ませて、真っ赤な顔で出水を見つめていた。
彼女がナンパにあう
だから広報誌に写真を載せるなんてやめておけと言ったのだ。しかもトリオン体ではなく生身の姿。謝礼に目が眩んでも、それだけはしないと思っていたのに。迂闊だった。出水は渋面を取り繕うことなく、の肩を抱く無遠慮な手を渾身の力で引き剥がした。反動でよろめいたの体を、難なく抱きとめる。
「悪いけど、こいつは今日、おれが予約してんですよね」
まあ、今日だけじゃないけど。
低い声でそう告げながら、出水は痛みに呻く男を冷たく睨みつけた。
初めて手を繋いだ
きょとんとした表情で、差し出した手とこちらの顔を交互に見つめるに、出水は溜息を吐きたくなった。どうにかそれを堪えると、やや乱暴に彼女の手を取る。「こういうことだよ」
「あ、ああ、そういう……」
「言っとくけど、子供扱いじゃねえからな」
指を絡ませるように繋ぎ直しながら、出水はじろっとを見据えた。
「わ、わかってるよ……」
ふいっと顔を逸らすの耳が、ほんのりと赤い。意識されているのだと実感して、出水はこっそり笑った。
彼女のことを帰したくない
「今日はこのまま、泊まってけば」出水の部屋の窓からは、もう明かりが落とされた家が見えた。目と鼻の先、歩いて一分もしない距離。それなのに、こんなにも離れがたいのはなぜだろう。
「もう二人とも寝てるんだろ。こっそり帰るの、面倒じゃん」
もっともらしい理由を述べながら、出水はの髪を指先で弄ぶ。ぱっと親指を離すと、柔らかなくせ毛はふわりと出水の手からこぼれていった。
「帰ってほしくないの?」
空いた出水の手を握り、は誂うように笑う。当たり前だろ、と答えると代わりに、出水は彼女の唇を塞いだ。
酔っ払って気持ちが駄々漏れ
「ちょ、ちょっと公平、苦しいってば!」「おまえが、にげるからだろぉ」
「だって……!」
腕の中で暴れるをがっちりと抱きしめ、出水は彼女の首筋に顔を埋めた。ふわふわと緩いウェーブを描く髪からは、ほんのりとシャンプーの匂いがする。
いいにおいだ。やわらかくて、甘くて、にぴったり。可愛らしいにおい。
うう、と呻く彼女が、少しだけ大人しくなる。出水は腕を緩めると、両手を頬に添えてまじまじと彼女の顔を覗き込んだ。
くりくりと大きな瞳が可愛い。目元の黒子は色気があって、柔らかな頬は触れたくなって――「公平、声に、出てるよ」……え?
プロポーズ
「わたし、結婚するんだ?」「なんで疑問系なんだよ」
「だって知らなかったもん」
助手席に座るは、出水家を出た時から窓の外ばかり見ていた。青信号に車を発信させながら、出水は眉を寄せる。
「今日、ちゃんと挨拶してきたろ」
「うちのお母さんと、公平のご両親にはね。それだって、初耳だったけど」
わたしはなにも言われてません。
刺々しい声で返されて、出水はぐっと押し黙った。言わなくても分かるだろ、なんて甘えは、さすがに許されないらしい。
「……おれと、結婚してください」
彼女が泣いた
「よく我慢したなー、えらいえらい」必死に唇を噛みしめるを抱き寄せながら、出水はぽんぽんとの頭を撫でた。その瞬間、ぎりぎりまで耐えていた心は決壊し、うわあっと幼子のような泣き声が出水の胸元に吸い込まれる。
の泣き虫が本当はちっとも治っていないことを、出水だけが知っていた。が涙を隠す理由も、――いつしか少女から女性へと羽化しようとする彼女の涙の、美しさも。
これが幼い独占欲だと、どこかで分かっている。それでも彼女の縋り付く先が自分だけであることに、出水はどうしようもなく安堵していた。
Up:2019.07.20
元ネタ:夢女子がかく
元ネタ:夢女子がかく
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