距離が近い
「前から思ってたんだけどさー、おまえら距離近すぎね?」
米屋のその言葉に、出水とはそろってタブレットから視線をあげた。ボーダーから支給されているもので、背面にはロゴが入っている。二人は明日の防衛任務について打ち合わせしているところだった。現在フリーで動いているが任務に参加するには混成チームを組むことになるのだが、既存の隊に混ざることも度々ある。明日の任務では太刀川隊に混ざることになっていた。
「それで付き合ってないんだもんなぁ」
菓子パンをかじりながら米屋がそう続けたので、出水は思わずへ視線を投げていた。同じタイミングでも出水を見上げ、ぱちりとぶつかる。思っていたより近い位置から視線が返ってきたことに、出水は少しだけ驚いた。だが、それだけだ。
「幼馴染だしこんなもんだよ」
「そーそ。おまえまで面倒なこと言うなよなー」
二人はただの幼馴染なのかという問いは、出水たちにとってうんざりするくらい聞き飽きたものである。ただの質問であれば否定して終わる話だが、へんに勘ぐってからかってくるような相手だと対応するのも面倒極まりない。中学生の頃はそういった人間が一定数いたり、の友人が出水を気にしていたりということが重なったので、どちらからともなく人前では苗字で呼びあうようになったのだった。その頃から自然と会話も減っていった。おそらくあの侵攻がなければ、二人がボーダーへ入ることがなければ、開いてしまった二人の距離が戻ることはなかっただろう。
を含めて家族を失った人間や家を失った人間がいる以上、あの侵攻があってよかったなどと言うつもりは出水にも毛頭ない。けれどとの距離が戻ったことは、素直に歓迎していた。も同じように思っていることは出水も感じているし、これがまた数年前に逆戻りするような事態はなるべく避けたかった。ただでさえ、フリーになってからのはどことなく落ち着きがないのだ。自分が見ていてやらなければ、きっと一人で無理をするだろう。なにかと溜め込みがちな幼馴染をガス抜きしてやるのは、昔から出水の役割だった。まだその役割を、誰かに譲り渡す気はさらさらない。
「つーかおまえも宇佐美と仲良いじゃん。似たようなもんじゃねーの」
「親戚と幼馴染は違うだろ。栞とオレあんな距離近くないし」
「じゃあ米屋もくっついたらいいじゃん、栞ちゃんと」
「そういう話じゃねーだろ」
ずれたことを言い出す幼馴染にツッコミを入れてから、出水はの持つタブレットのふちを指先でトントンと叩く。「んなことより、明日の任務」
「あ、そーだった」
の視線が再びタブレットに落ちる。米屋はまだ話を続けたそうな様子だったが、二人の意識が完全に打ち合わせに戻ったのを見て取ると、諦めたように二つ目のパンに手を伸ばした。
Up:2018.05.22
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